バンビエン_チュービング

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翌日、良く晴れていた。Othersideレストランに行って、いつものサンドイッチを頼む。
「今日は、チュービングをしよう」
近くの川を見ながら僕らは決めた。
ここバンビエンでは、夜のマリファナもそうだが、観光地としては昼のチュービングというので売り出しているのである。チュービングとは、固いゴムで出来た浮き輪の上に浮かびながら、川を下るアクティビティである。このバンビエンには、その川の途中にいくつののバーがあるので、立寄り飲んではまた川を下っていくのである。中々こんな最高のアクティビティを見つける事は難しい。

川の上流まで乗り合いバスに乗り移動した。アメリカ、イギリス、イタリア、オーストラリアと国籍豊な空間。この時、松之助は金色の全身タイツを来ていたので、お決まりのようにいじられる。15分程度バスを走らせると、上流にたどりついた。川に足を入れる。水は少し冷たく、気温はやや暑め。環境は、上々。川の流れは、思ったより早い。チューブを川に浮かし、真ん中の穴にお尻を入れる。そして、ゆっくりと動き出す。風呂の湯船に浸かるような体勢が一番楽のようだ。上を見上げるともの凄い綺麗な青空に真っ白な雲が少し浮かんでいた。Othersideレストランから見える山が、もの凄く近くにある。

開始3分程して、僕のチューブが岩の間に挟まった。一度チューブから降りるのも面倒なので、体をゆさゆさを動かしチューブを岩から外そうとした。次の瞬間、チューブがひっくり返り先に流れていってしまった。僕は笑いながら、「今から先に流れたチューブを取りに行きます」なんて言いながら川に潜った。

僕はあまりにも川を知らなすぎた。川の中の流れはもの凄く早く、一瞬で僕は飲み込まれてしまった。決してカナヅチという訳ではない。そして、徐々に徐々に川の上で顔を出せる時間が短くなってきた。チューブは遥か先に流れてしまい、そして、もう元の場所に戻る事も対岸にたどり着く事も出来ない状態になっていた。小学校の授業で「溺れてもパニックにならない事が大切です」というフレーズが何度も頭をよぎった。現在、パニックにはなっていないが、自分の力でどうしようもできない事を知った先には、パニック以上の絶望と恐怖が広がっていた。

一人の男が僕のチューブに向かって泳ぐ。
「そこでじっと待ってられるか」
疲れ果てている僕は答える事すら出来ない。川の同じ方向に流れる。
そして、川の中で何度も浮き沈みを繰り返す。息づかいが激しくなる。川の中で、どれほどの時が過ぎたのか分からないが、流れていったチューブを取りに行ってくれ、溺れている僕の手元まで届けてくれた。残った力を振り絞り、片手でチューブを掴み、水面から顔を出した僕は呼吸を必死にした。

近くの岸にお店があったので、そこにたどり着く。
岸に上がり、僕は嘔吐し、暫く動けなかった。
お店の中で仰向けになり、水を少し飲んでから目を閉じた。
気がついて目を開けた時、体の左半身が少し痙攣していた。
ペットボトルを持つ手が震える。蓋も締めれぬくらいに。

目を覚ますと松之助とさおりさんがそこにいた。
「大丈夫?」

チューブを取りに行ってくれたのは、松之助だった。偶然、彼は水泳部で、この激しい川の流れの中取りに行ってくれたのだ。本当に彼が居なかったら、僕はあの川で溺れていたと思う。本当に。ありがとう。

それから、僕らは静かに川を下り宿に戻った。夜、またこのバンビエンの街に、大雨がやってきた。


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